SSS_no.091:君がつくる物語3

「「あ」」
エスカレーターのクロスに交わるところで、ふと男女の目が合った
彼らの初対面はそんな土曜の昼下がりであった

〜あとがき〜
このシリーズ、深く考えなくていいので楽です←


  SSS_no.092:男女鉱業

男女平等が叫ばれるなか、ある企業が女性だけでの鉱山採掘を行なった
現場責任者はもちろん最前線で動く者まで全て、総勢200人の女性が集められた
彼女らはより効率的で安全かつ働きやすい環境を整えるべく、議論を重ねた
そして半年後、彼女らは理想の環境を作り上げ満を持して採掘を開始した
一方隣の鉱山は、男100人が1ヶ月で鉱石を掘り終わり、すでに撤退していた

〜あとがき〜
別に女性の悪口を言っているわけでも男を持ち上げているわけでもないです。
あと、「一方ソ連は鉛筆を使った」のあのオチを想定した方は、するどい。


  SSS_no.093:夜の簿記講座

「ねぇ、ちょっと……?」
リビングのソファーでうとうとしていた俺を、雑巾片手に嫁が呼ぶ。
「この本なんだけど……」
言い終わるが早いか、眠気の一気に吹き飛んだ俺は彼女から本を奪った。
「ねぇ、なんで隠すの?資格試験の本でしょ?」
ねぇねぇと笑顔で迫る嫁の目は笑っていない。
「簿記の本だよね、それ。うん、それにしても、簿記ねぇ……、ふーん……」
そう言いながらも、間違いなく彼女は中身を確認しているに違いない。
「最近、毎晩頑張ってるもんねぇ?ねぇ?うふふふふ」
愛妻は能面のような笑みのまま、俺から本をぶん取り、ゴミ箱に投げた。

ベッド下、引き出しの二重底、箪笥の裏、これまでも悉く見破られてきた。
そのたび俺は高い代償を払わされている。前回は、3万のバッグだった。
しかし、本でも浮気にカウントとは、愛されているのかなんなのか。

「ねぇねぇ、あなたー」
さて、次の罪滅ぼしはなんだろう。立ち上がったその刹那、寒気がした。
嫁が今いるのはパソコンの前、そしてモニターに映っているのは……。
「やっとパソワードが分かったわー。で、これも簿記の教材かしら?」
隠しておいた動画データが展開されている横で、嫁が仁王立ちして微笑んでいた。

〜あとがき〜
簿記だけに、語感と経験等々で具体的内容はお察しください。


  SSS_no.094:僕の歯ブラシはピンク色

ねぇ
ねぇってば

まどろみの向こうから、聞きなれた声がする。

ちょっと
はーやーくー、おーきーろー

羽根布団ごしの長周期揺すりに、俺は瞼を開けた。
ちなみに揺すりの次は、のしかかり、往復ビンタの順である。昨日で懲りた。
「あ、おあよう」
身体が寝ぼけているせいで、喉を通ったのは間の抜けた挨拶だった。
「おはようじゃないでしょ、早く支度しないとまた遅刻するよ」
時計の針をみて驚く俺のスウェットを剥ぎ取りながら彼女は先手を打った。
「一応言っとくけど、10分前にも起こしたからね。ほら、洗濯機回すから、早く」
そんなわけで俺はトランクス一丁で洗面所に立たされたのである。寒い。

「はぁ。その印の無いほうはあたしの歯ブラシだって、何回言ったら分かるのよ」
同じピンクの歯ブラシ、紛らわしいと彼女が俺のに赤のテープを巻いていた。
俺が寝ぼけて間違えているのだと彼女は思っているだろうが、わざとである。
一週間前に青色の歯ブラシを差し出した彼女に駄々をこねたのも、このためだ。
同じ色、もしくは寝ぼけて間違えたと思われて自然な、似たようなものがよかったのだ。
俺はこの小学生でも間違えないピンクと青の歯ブラシを、たまにわざと間違えて使う。
今さら間接キスとは思うが、なぜかとても嬉しくなってしまう自分がいるのだ。
そうこうしていると彼女は、ほら、諦めて俺の歯ブラシを使う。そして、
「て、おーい、寝癖ついてるぞー」
彼女が印のついた俺の青い歯ブラシを咥えながら、俺の寝癖を直しはじめた。
濡らした手で毛の根元から撫で付けるこの感触がまたたまらなく心地良いのだ。
ここでまたうっとりしていると後ろから蹴りが入るので、俺は手早く口をゆすいだ。

「じゃあ、いってきます」
「ん、いってらっしゃい。ゴミ重いから階段降りるの気をつけてな」
洗濯機の回転する音をバックに、彼女が手を振って俺を見送った。
俺と一緒に歯を磨いていたから、二度寝はしないつもりだろう。
次は自分の歯ブラシを使おう、そうすればまた間接キスができる。
そんなことを考えつつ、俺はアパートの門前で燃えるゴミにいってきますをした。
腕時計を一瞥し、青空を堪能する余裕のないことを確認して俺は走り出した。

〜あとがき
SSS082の男視点版。
SSSで初めて句点(。)を使ってみたのと、三点リーダ(…)やクエスチョンマークを使わないように意識して書いてみた。なんとなく。


  SSS_no.095:走る女神

蝉はまだ寝ている。鳴いているのは名も知らぬ裏山の虫達である。
決して涼しくはないが、連日の猛暑日も日の昇らないうちはまだ過ごしやすい。
身体もようやく盆地の夏に適応してきた。ひと月前はこの程度でも暑いと漏らしたろう。

スニーカーを履きつつ門戸を開けると、ちょうど裏山の向こうから日が顔を出した。
たまらず額のサングラスを降ろし、入念に足腰の筋を伸ばしにかかる。
腰を回し、屈伸、アキレス腱を伸ばすなどして、時計のスイッチに手をかけた。

デジタル表示が秒を刻んでいく。朝日の照らす歩道を規則的に駆けていく。
気温の上がるにしたがって蝉も起きだし、心拍数も上がっていくのが分かる。
時折、同志とすれ違う。ほんの少し会釈をしつつ道を譲り合うのが暗黙の了解だ。
そのうち、ある女性とすれ違うのが密かな楽しみなのである。
むしろ、このために毎朝早くから走っていると言ってもいい。

縛った長い後ろ髪は駆ける度に揺れ、一本一本が日に透けて黒々と輝いている。
頬には汗が伝い、それがきらきらと光りながら地面や鎖骨に落ちていく。
白のシンプルな半袖ウェアは柔らかな身体のラインをふわりと包みこんでいる。
同じく白のハーフパンツも鍛え締まった下肢の曲線をゆるやかに表現している。
それらの合間から覗く肌はしっとりと汗を纏い、小麦色を艶やかに魅せている。
桃色のスニーカーで規則的なリズムを踏んで、今日も彼女が向こうから走ってきた。
街路樹の並ぶ歩道、間合いを計りつつ軽く会釈をしあって今日も彼女とすれ違った。

どこの誰かは分からない。向こうはおそらく気にも留めていないだろう。
だが彼女は、確かに一人の男をこうして今日も朝の歩道に向かわせている。
走る彼女を見ていると、心の奥まで日の届くような不思議な暖かさが感じられる。
この健康と邪のせめぎ合う快楽にみせられて、もうひと月が経った。

いつもの電柱をタッチし、時計のストップウォッチを止めて走るのをやめた。
自然、両手は左右の膝に固定されて汗を垂らしつつ俯いて肩で息をする。
二分ほどそうして袖の部分で顔の汗を拭うと、門戸を開けて家に入った。
外では蝉がけたたましく異性を呼んでいた。今日も暑くなりそうだ。

〜あとがき〜
全部フィクションです、念のため。


  SSS_no.096:シチューに入った人参

私は間違いなく、ほんの少し前まで顔を真っ赤にして怒っていた。
しかし殴りかかろうと握った拳は振り下ろされず、宙に浮いたまま小刻みに震えていた。
かなりの間怒鳴り散らしたのだろう。漏れ出る嗚咽はハスキーに掠れている。
しかし、ここに至るまでの一切をまったく思い出せないのだ。
私はなぜ怒っていたのか。そしてなぜ今、何もできぬまま固まっているのか。
それも全ては、私の眼前でにこにこと微笑んでいるこいつのせいである。
この男は、私の振りあがる拳に臆することなく私の頭を撫でできた。
その刹那、私から一切の怒りが蒸発して頭のなかは真っ白となったのだ。

そうなのだ。この男は前から卑怯なのだ。
こいつは私に三度振られている。毎度散々に罵り跳ね返しても一向に懲りない。
まして私が他の男に振られて泣いているとき、気が付けばこの男がそばにいた。
だがそんなときに限って告白してこない。こいつは女を分かってない、馬鹿なのだ。
四度目の告白で、私はこの男と付き合ってやることにした。
根負けしたわけではない。体の良い下僕として、黙らせる目的のためだ。
うっかり本人の前でそう言ったときも、こいつはそれでもいいと微笑んだ。
その爽やかで晴れ晴れとしたあたたかな微笑みにいらついて私はそっぽを向いた。
不安定な時期、ひどく当り散らしてもこいつは悪態ひとつつかずに付き添っていた。
むしろこっちがうんざりするくらいに男は私のそばを離れなかった。
君に万が一のことがあったら、自殺でもしたら、と的外れな心配をしていたらしい。
自殺するくらいならおまえを殺してやる、などと罵っていたら男はふわりと笑った。
男は今でも手の引っ掻き傷の痕をみてはにこにこしている。心底気持ちの悪い男だ。

ああ、思い出した。そう、今日、男の帰りが遅かったのだ。
私はまたヒステリックにこいつを罵倒したのだった。悪い癖だ。
分かっている。夕方から降り出した雪のせいで電車が止まったのだ。
さらに駅からここまでの道は緩やかな上り坂だから、バスも止まってしまっている。
メールも届いていた。夕食の時間に帰れそうにないから、先に食べていてほしいと。
そしてこの男は、普段は一時間ほどの帰路を五時間もかけて歩いて帰ってきた。
そうして道中何度も転んだのか、びしょびしょの泥だらけになって男は帰ってきた。
その男に対して私は帰りが遅いと怒っていたのである。

ごめんな、途中で道に迷っちゃって、もう少し早く帰れるはずだったんだけどな。
そんなことを言いつつこの男はずっと私の頭をなで続けている。
この男はいつもこうなのだ。私が悪いのに、ずっとこうなのだ。卑怯だ。ずるい。
っくしゅん!
玄関でもう十分以上濡れたまま男は私の頭をなでていた。
私は赤くなった鼻頭と両目を乱暴にこすりつつ、男を脱衣所に引っ張っていった。
いつ帰ってくるか分からぬと、もう三度目の追い炊きで風呂場は蒸気で満ちている。
裸になった男をその霧中へ押し込み、私は顔を洗ってから台所に向かった。
とっくに作り終えた二人分の夕食を温めなおす。時計の短針は11を少し超えている。

湯気立つシチューと男を前に、帰りが遅いから腹がへったと私は悪態を重ねた。
向かいに座る男は、ごめんね、待っててくれてありがとう、と微笑んだ。
この男のこういうところが一等ずるい。私はこの男のことが大嫌いだ。
だから私は男のシチューに、それはもうたっぷりと人参を入れておいた。
何か察したのか、男はこちらのシチューをみてにっこりと笑う。
君にも分けてあげるよ。おいしいから食べてみてよ。
この男のこういうところもずるい。私はこの男と人参のことが大嫌いだ。
男は大きくカットされた人参を三切れ、私のシチューに放り込んでまた微笑んだ。

後に分かったことだが、旦那のほうは人参嫌いをとうに克服していたらしい。
やっぱり私はこの男のことが大嫌いだ。


  SSS_no.097:次へ

――あなたは今なにをしているのでしょう

そんな歌いだしで始まる曲がある。
ランダム再生でふと流れてきたこの懐かしい曲。

この曲をはじめて聞いたあのとき。
この曲をハードディスクに入れたあのとき。
この曲を延々聞きながらレポートを書いたあのとき。
そして、歌いだしに想いを馳せながら「次へ」のボタンを押す、このとき。

あなたは今なにをしているのでしょう。
胸の奥から顔を覗かせた何かが、アップテンポの曲を聞いてのそりと降りていった。

〜あとがき〜
「ひぐらしのなく頃に」の「you」がちょうどランダムで流れてきたので。
歌詞をそのまま書くと請求書が飛んでくると聞き、歌いだしはやむなく変更。
夏休みの夜にプレーしてトイレに行けなかったことが懐かしいです。


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