
飛び乗った電車はその常に漏れず、多量の酒気を帯びていた
偶然空いていたスーツ男の隙間に刹那の躊躇の後、その身を滑り込ませる
そのシートの硬さと身に染み付いてくる臭気に思わず、下を向いてため息を吐き…
次に聞こえたのは終点を告げる、車掌の鼻にかかったアナウンスだった
男は先刻呑んだビールの酒分をため息にこめて、緑のシートから車外のベンチへと向かった
無意識に見上げた先の駅の時計はそろって漆黒の空を指している
そのとき初めて自分の時計が止まっていることに気づき、今日何回目かのため息を漏らした
…こうするより他に仕方なかった
今しがた降り始めた冷たい雨の中、まだほのかに暖かな女を抱いて私は泣いていた
この身体を暖めれば、コイツは息を吹き返すと思って…
でもそれは有り得ないことだと、より冷たくなっていく女を見て嘲って…
血と、涙と、雨と、土と…
刃はそれら全てを受けてなお、鈍い冷笑を反射光に秘めていた
女はその水掛け論に終止符を打つべく、冷めた珈琲に口をつけた
男もようやく周囲の眼に気付いたか、既に飲みきった自分のカップに手をつけ…離す
「もう、おしまいなのか?」
女は返答のかわりにカップの紅を拭って肯いた
しばしの沈黙、聞こえるのは男女を指すひそひそ声と流れるジャズのみ
そこに女の声が無感情に、しかしはっきりと響いた
―慰謝料、
その言葉を皮切りにまた言葉は弾丸となって銃口から飛び出しはじめた
*本作に関しては3部構成となっています。(作者註)
SSS_01-noon title:Lunch Time Wars
其処はまさしく戦場であった
人は群れを為して隊列を作り、整然と・雑然と「城門」を攻め続ける
各々「兵士」達は「戦果」を手に、後衛の自陣へと戻る
時を気にする者、「戦友」と語り合う者、友の帰還を待つ者……
それは時を知らせる鐘の音が聞こえるまで毎日、途絶えることはない
SSS_02-nonn title:第15次唐揚げ戦役
戦場は何も、食堂に限った事では、決してないのだ
「戦果」在る所には必ず「軍人」と「策士」が存在するわけで
『この唐揚げ、もーらいっ!』
今日も宣戦布告を受けた訳である
SSS_03-noon title:the mathematics beach
食物消化による脳内血液循環力の低下における倦怠及び催眠効果
軟らかな太陽光及び湿度60%前後の微風等によりその効果は倍増する
要するにだ、食後に5限数学とくればそれは昼寝時間にとって変わり、
誰も見ていない黒板に次々へと数・文字が表記され……消されていく
まるで一波が上陸するが如く、それは記憶にも記録にも残らぬままに
〜あとがき〜
そういえば高校は5時間目が昼一だったなぁとかしみじみ。
〆切失念してて作品コンペの当日昼休みにあわてて書いたなぁ。
もう六月も末なのに、ここではまだウグイスが鳴いている
その声とともに聞こえるセミのコーラスが、不快指数をぐっと引き上げる
しかし上がる不快指数も、群襲してくる虻も、今の男にとっては最たる問題ではなかった
そう、問題は『此処は何処』で『自分は誰なのか』だった
男は頭から紅い命の雫を垂らし、崖下のひしゃげた車の中でただ呆然とするほかなかった
もうこうして三日、流した血の乾いた頃、怪我人の周りを徐々に鴉が取り囲み始めていた
ある夫婦は木のタネを植えた
タネはみるみる間に女の胸丈程にまで成長した
しかし木は病にかかった
栄養も、水も欠かさずやったのに…
夫婦は嘆いた、殺虫剤も撒いたが虫の性ではなく効果は無かった
そして…木は枯れてしまった、その木の内側はすっかり朽ち果てていた
暖かい「日」の加護を得られないモノの末路を、それは如実にあらわしていた
ある日、仕事から帰ってみると部屋に見知らぬ女がいた
話を聞くに、彼女は天から俺のもとへと遣わされた天使、らしい
―ふつつか者ですが、なにとぞよろしくお願いいたします
高鳴る胸とは裏腹にこの日以来、俺の日常はがらりと様変わりすることとなる
…予想・期待とは違う方向に
これを見たものは注意してほしい
ある日見知らぬ女(特に自称天使)が部屋に転がり込んでも追い返すこと
家を吹っ飛ばされたり、魔界の使者云々に追いかけ回されたくなければ…
……さぁ、今日もなにかが起きてしまったようだ
台所のほうから場違いな爆音とともに目にしみるような煙と心にしみる嫌な予感がもやりとやってきた
〜あとがき〜
少し長いのを書こうとして断念したネタ、07年1本目。
何処のラノベだ何処のギャルゲーだとかいうツッコミ等はなしで。
いやはや、物語とはまったく、読んでいて興味が尽きない
必ず何かしら、章を追うごとに道しるべが現れ、最後にそれが一つの形を創り出すのだ
しかし、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものである
道しるべは確かにそこにある、しかし事が迷宮入りするも珍しきにあらずが此の世
行き止まりと思ったら恐がらずに後ろを振り向け、もと居たところまで戻れ
そう、前を見るもよいが、脇に抱えた地図を解読するもまた道探しなり
さて次に見つけた道が導くは悲劇の壇上か、はたまた至福の園か…
「手、冷たいね…」
あの雪の夜、君はそう言ったっけ
なら、今の君の心もきっと、とっても温かいのかな
淡い微笑みを僕に向けて眠る君
僕の膝に頭を乗せて、残りわずかな熱を僕にうつす君
いくらキスをしても、君はもう目をあけようとはしない
もう、その頬を朱に染めて僕を見上げてくることもない
君の後を追うように、頭上でまた桜が散って宙を舞った
残された僕は、そうして桜とともに静かに泣いたのだった
もう、すぐに「さめる」ユメはみたくない
―でも、ユメはいつか「さめる」んだよ?
じゃあ、もうわたしはユメをみない
―ほんとうに、それであなたはいいの?
ユメをみては「さめて」、またそれから目を背けるようにユメをみる
「さめる」たびに後悔の涙をながし、泣きつかれてまたユメをみる
そして、そうしているうちに、ヒトはいきつく
…なにが、ユメなの?
…どれが、ユメなの?
よおくごらん、そのキミを魅了してやまない幻を作り出しているのは、だれ?
関西人はオチのない話を苦手とする
ゆえに、オチツカナイ「告白」などは関西人にとって拷問にも等しい
この証明の理論値でいけば、関西人は告白しないし恋愛や結婚もしないはず
関西人が今もなお途絶えないのは、現実が理論を超えるからだ
…ということは関西人は、近い将来「重力」や「浮力」の理論値などに臆することなく、
はるかに広がる大空を自由に飛べるようになるのかもしれない
〜あとがき〜
んなこたぁない。
この時期になると、途端に忙しくなる……
祈祷案件検討事務局、ここには現世より出される「お願い事」が集められる
全国から集められたそれら「お願い事」を私たちは一つ一つ見ていくのが仕事だ
この、ただでさえ気の遠くなりそうな業務に、今は膨大な量というマイナス事項が足される
そう…今は1月1日、初詣という忌まわしい形式的行事に事務局は地獄絵図と化している
「今年も家内安全が1位か」
「その次に多いのが学業成就ですね、そんなの私たちに言われても困るのに…」
「いいじゃないか、下界には『当たるも八卦、当たらぬも八卦』という言葉があるんだから」
「…私たちがやってる努力を無駄にするようなこと言わないでください」
おーい、また大口がきたぞ!そこ、喋ってる暇があったらこっちの処理手伝え!
「あぁあ…やなご時世だね、…さあて、いっちょもう一踏ん張りするか」
「ときに、今来たのは何処の分でしょう?ずいぶん多いようですが」
「ん、とぉ?……ああ、こりゃあ『おいなりさん』だな、京都の稲荷大社」
「あ、そこわたしの地元ですよ!ああ、今度妻の枕元にでも立とうかなあ…」
「ん?どした?」
「初詣には行かないでくれ、死んでなお夫に仕事をさせるな、って」
「やめとけ、詐欺師に変な踊り見せられて家族の貯金が減るだけだ」
「…それって、世に言う祈祷師とかお祓いとかの類の話ですか?」
おいこらそこ!怠けてないで仕事仕事!
「「はーい」」
極楽も決して天国ではないようで
もう、何も見たくない
もう、何も聞きたくない
この世のものは、わたしには苦しすぎるから
みんな、わたしの好きな人は遠い向こう岸に行ってしまった
みんな、向こう岸で幸せそうに笑って、こっちに手を振ってくる
――こっちにおいでよ
行きたいよ、わたしもみんなのところに行きたい
…でもね、わたしには行く資格なんてないし、行けるはずもない
もう、遅いの……わかる?
わたしには、渡るべき橋がないの
だから…さよなら
もう、みんなとは会えないかもしれないけど、わたしはこの岸から離れることにします
さいごにみんなへ、本当にありがとう
みんなのいる向こう岸に、そしてわたしの向かうところに青い鳥がいることを祈って…
それはまさに絶体絶命のピンチといってよかった
敵がその一瞬の隙を見逃すはずもなく、現に敵は自陣の奥深くにその歩を進めている
守備陣も完全に崩壊、数刻前には勝ち戦と目されたその余裕は何処へいったのだろうか
眼前では相手の主砲が、鈍く黒光りする長物をこちらへ向けている
…ここで抑えなければ、やられる!
汗を一拭いし、戦場の真ん中に佇むひときわ小柄な「戦士」は軽く味方を見渡した
疲労の色をかき消すように、一同は決意を伴った頷きを男に返す
それを確認し、男は交わしたサインを元に今日の百球目を投じた
〜あとがき〜
「鈍く黒光りする長物」のところで違うナニかを想像した人は、素直に手を上げましょう。
はい、今手を上げた人はダメ人間。
知りたい
知らないことは罪だから
知りたい
わたしは「無知」が怖いから
でも、知りたくなかった
それはとてもかなしいこと
知ってしまった
その言葉の意味を
近くで啼いていた蝉の声はいつの間にか止んでいた
彼はもう、土に還ったのだろうか
一人ぼっちのわたしを、東の太陽だけが見つめていた
朝焼けの空に促され、わたしは今日も剃刀を握り締める
〜あとがき〜
ちなみにわたしは剃刀を本来の用途以外に使ったことはありません。
というか痛いのはいやです。
もう、西の空に太陽はない
「大事な話がある」 川縁に立ち、先刻送信したメールを見返す
約束の時はとうに過ぎ、辺りを見渡せば多くのペアが川岸で幸せそうに肩を寄せあっていた
ただ返事が聞きたかった、たとえ結果がどうだったとしても、その口から
今しがた送られてきた別れのメールを画面から消し、用意していた一対のリングを川へ投げた
冬も近づく寒空に、悲しみのこもった水音はふわりと溶けて消えた
― 雨、
雨が降っていた、今日も雨がわたしを眠りから覚まさせる
天から地へと、無数の雫は長い軌跡を描いて一直線に墜ちていて、
小さな換気用の窓、外から見えるrain, line, rain...
さながらそれは、灰色に霞む牢の格子のようで…
― 逃げられない、わたしは囚われている
今日もわたしは傘の下、どこか物憂げなこの街を歩く
― 曇天の空、「彼」は何に嘆き涙を流すか?
それは誰も知らない
色とりどりの電飾と騒音に満たされた世界、
そのなかをヒトビトは俯いて歩く
太陽はとうに西へ行方をくらまし、
月は今宵も夜の番を冷たいその眼差しでもって執り行う
ざわめき、クラクション、足音の群れに、アナウンスの声、
誰も気づかない、見向きもしない
冬はもうそこに来ているのに、
ヒトビトはただただ襟をたてるのみ
冷たい雨はいつしか白い天使に姿を変えて、
喧騒のなか今宵も眠らないその街へと舞い降りる
下界に降臨せし雪の精に魅入られ、
冷たい夜の街でわたしに寄り添うは誰か?
雪の降る夜、運転する車のすこし前方あの交差点の信号が赤に変わった
――あーあ、信号ひっかかっちゃったねパパ
――いや、これでいいんだよ。赤でいいんだ
蘇るあの記憶、降りしきる雪とともに地に還った細君
助手席ではしゃぐ「生まれ変わり」の前を、あの夜と同じトラックが通り過ぎた
――冬美、みているかい?もう、こんなにも大きく育ったんだよ
思いはどこよりかのジングルベルにのって藍空に溶け消えていった
――雪、降らなかったね
――でも寒いよね、じゅうぶんすぎるくらい
――そうだね
川の岸辺に座る一組の男女
寒空広がる二人だけの世界に笑い声がひとしきり響いて、
――約束…、覚えてるよね…
――う、うん…。ほんとに…僕でいいの?
――…うん
――わ、わかった… じゃあ…、目…
互いに目をつむった二人は、言葉の代わりに唇を重ねあった
川は二人を祝福するようにいつまでも静かにせせらいでいた
〜あとがき〜
いやー、鴨川ってネタの宝庫ですよねー。
カップルの皆さんも寒いなかがんばっていらっしゃる。
……さ、俺はとっとと帰ってあったかいココアでも飲むか。
「1人を殺せば犯罪者だが、100人を殺せば英雄である」
そんなことをわたしはどこかで聞いたことがある
平時の現世において、「敵」は無論殺してはならない
その「排除」には困難を極めるといってもいい
それに比べて戦地はどうか
存在するのは「殺すべき敵」と「守るべき味方」のみ
皆が一様に「死」に直面する場面において、究極の平等がそこにある
差別もなにもない、悲劇と惨状の名の下にそこは「自由の園」となる
戦え、我らが誇り高き戦友よ
神は戦いを望んでおられる
これが最後の聖戦なのだ
(指導者Aの手記による)
〜あとがき〜
わたしは戦争賛成論者でも過激派でもありません、念のため。
あとこれはフィクションで指導者Aは実在しません、念のため。
秘密は秘密にしているときがたまらなく楽しい
ならばわたしはこの秘密をずっと守りとおそう
秘密を曝け出すとき、これもたまらなく楽しい
ならばわたしはこの秘密を惜しみなく明かそう
でも、秘密が秘密でなくなった後は楽しくない
ならば、わたしはこの秘密をどうすればいい?
夜半から雨だとの予報を支持するように、風は東の山から真正面に吹いてきていた
日も暮れて、暗い夜道を街頭の明かり頼りに家へと続く夜道でその曲は流れた
左のポケットに入れた音楽プレーヤー、入れたことすら忘れていたあの曲
その曲から僕は、あの夏の燦々と輝く「太陽」の香りを思い出した
その曲から僕は、あの夏に咲かずに散った「花」の色を思い出した
その曲から僕は、あの夏の終りに「夕立」が降った事を思い出した
夜道で歌詞を口ずさみながら歩く僕の目から、涙がこぼれた
それを向かい風のせいにして、僕は鍵を手に角を曲がる
雨はそれからまもなく、夜遅くまで降り続いた
あの夏のときと同じ、悲しくて綺麗な大粒の雨だった
エジプトの壁画を見ても、私たちにはそこに何が書かれているのかは分からない
でも、そこには確かに意味を持つ「記号」があり、物語があり、書いた人の思いがある
ひょっとしたらこれらは「国書」のように大事な記述なのかもしれない
でも、ひょっとしたらこれは「クソスレ」よりもつまらない落書きかもしれない
想像してごらんよ、ここに何が書かれているか
鷲やら眼やら、色んな記号と絵を駆使してこの岩には何が書かれているか
大事なものかも分からないのに、人生をかけてそれを読むなんてロマンに溢れてるじゃないか
どうだろう、ここはひとつ内容を想像してみようじゃないか
例一「現王、ツタンカーメンが暗殺された。首謀は側近の一人で、ほかにも五人が共謀し、」
例二「ピラミッド建設計画が始まった。場所は王家の谷の南西側で、5000人を動員し…」
例三「以下にエジプト王朝の影の部分を記す。まず記録から存在の消されたあの王についてだが、」
例四「やべぇ、ピラミッドつくる人募集してたけど俺選考から漏れたw今日からニートww」
例五「クレオパトラのエロ画像ください。お願いします」
例六「やる夫がファラオになるそうです」
すまない、少し調子に乗りすぎたようだ
上手いオチのつけ方を学びにちょっとナイル川まで行ってくる
なーに、雨季だからって心配は要らないさ
〜あとがき〜
がらっと何かを変えてみたら、なんか後半がスレの書き込みみたくなってしまった。
…ま、たまにはこんなのもいいか。
注意)上記内容においての歴史的記述は正確でないかもしれません。裏づけ取ったりとか、
そこまで力入れてやるもんでもなかったので手を抜き適当なこと書いてます、ごめんなさい。
「全ては…そう、キミを守るためだったんだよ、エイリス!」
狂喜の笑みをたたえ、青年は愛する女の名をあげた
おだやかないつもの笑みは、真紅の血に染まって捻じ曲げられていた
「みんな、邪魔なヤツはみんな殺してやった!もうキミは、僕タチは自由なんだ!」
静かな夜、村の講堂にこだまする少年の声した悪魔の笑い
少女エイリスはつぶっていた眼を開くと、両手を前に掲げて右の人差し指をひいた
一瞬の静まり、聞こえるは銃声の残響と虫の音
エイリスはゆっくりと「的」に向かって歩いていった
「貴方は何も分かっていなかった、でも私はそんな貴方が好きだった」
明け方に彼女は村を発ち、村に残ったのは血だらけの家々と一つの薬莢だけになった